国語科の「THE KING」あらかわです。この校舎ブログでは私が面白いと思った小説や作家をいろいろと紹介し、能書きを垂れたいと思います。今回は最近読んだ、日本語訳されている翻訳作品編です。
・『プロジェクト・ヘイル・メアリー』 アンディ・ウィアー
好きな本がある。その中でベスト20を決めろと言われたとする(10は選べない)。すると感受性が豊かな頃に読んだ本がどうしてもベスト20を占める。ここ数年、順位の変動こそあれ、その20冊は不動だった。しかしそんな不動のベスト20に割り込んできた不躾なやつがいる。それがこいつである。あらすじはネタバレになってしまうので書かないけど。
まあこう書くと完全無欠な作品かと思われるかもしれないので、少々欠点を挙げると、設定がぶっ飛んでいて、内容的にも理系の話が多分に含まれる。物理とか化学とか生物とかの話が随所に出てくる。しかも展開のカギがそこに含まれる。が、空気感や概要はなんとなく分かるし、問題のヤバさも伝わってくる。
あの結末を読み終えたとき、私はしばらく動けなくなった。余韻と呼ぶには濃すぎる読後感がいつまでの心の中を覆っていた。そして翌日空を見上げた時、なんでこっち側から見てんだ?という、地上にいることに違和感があるものだった。
・『フェルマーの最終定理』 サイモン・シン
まず勘違いして欲しくないのだが、それは「数学が苦手だろうが関係ない」ということである。サイン・コサイン・タンジェントとかが般若心経の中にこっそり入れられても気づかないレベルの人にもオススメしたい。この作品の肝は「人」である。そこに息づく「ドラマ」である。
ストーリーとしては17世紀に一人の数学者フェルマーが残した「私はこの命題の真に驚くべき証明を持っているが、余白が狭すぎるのでここに記すことはできない」という【フェルマーの最終定理】というラスボスの前に天才数学者たちが屈していく話なのだが、その意思はまた次の天才に託され、少しずつそのラスボスを弱らせていく・・・かのように見えるのだがそう上手くは運ばない。こうして作品としてまとめられているので、物語の結末はご想像の通りなのだが感動する。そこに至るまでの300年に及ぶ戦いの終着点に必ず涙する。フェルマーの最終定理の前に散っていった数学者たちや、フェルマーの最終定理に至るまでの基礎を築いてきた偉大な数学者たち、彼らの魂がそこに寄り添っているようだった。
「300年間人々を悩ませてきた問題が解ける瞬間に出会える」というだけで十分魅力的ではないだろうか。そこには300年分の苦悩や感動がある。数学者ではない私たちはその一部をお裾分けしてもらっている身分なのだろう。それでも溢れるほどの感動を得られる。
最後にワイルズに言いたい。「全然わからないけど、おめでとう。素晴らしいっ!(←足川先生風味)」と。