


「がんばってみないか?」――― 入塾テストでまったくできなかった男の子を励まし、通ってもらうようにしました。
学ぶ意志さえ持っていれば、いま勉強ができない子でも、私たちは受け入れます。その子もそうした一人でした。ところが、文理で学び始めると嘘のように成績を伸ばし続け、この地域で2番目の進学校に合格を果たしました。「文理に入ってよかった、先生ありがとう」と塾教師の冥利に尽きる言葉をもらい、「こちらこそ、ありがとう」と胸のうちでつぶやいたのを思い出します。
安全な合格を優先し、受験校を1ランク落とそうかと迷っていた女の子がいました。こうしたケースは割りと多く、実はかつての私自身がそうでした。あの不完全燃焼のホロ苦さを彼女には味わわせたくないと思い、「目標から逃げないで」と勇気づけました。結局、その子はがんばり抜き、第一志望のトップ校に見事合格したことは言うまでもありません。
この校舎は静岡県内の私塾の中でも一、二を争うほどの生徒数を誇ります。そんな大所帯の切り盛りにプレッシャーがなかったわけではありません。しかし、専門教科の英語にとどまらず、5教科をトータルに見るようになり、将来を一緒に考える進路指導の機会も増えて、生徒たちの成績が上がる様子、同時に人間として成長する様子まで直接実感できることに、いつしか夢中になっていました。
うわべだけでは子どもたちはついてきてくれません。何かを伝えるべきとき、もう一歩踏み込めるかどうか。その勇気の源は、私の場合、「生徒がいるから」と表現するほかありません。ここに通う小中学生一人ひとりに将来があります。一歩踏み込み、心が動かすことができれば、その子にも私にも人生のご褒美が待っています。